うつ病
誰もが患う可能性のあるありふれた病気
うつ病は俗に「こころの風邪」と表現されることもあるほど、誰もがかかりやすい病気のひとつです。決して特殊な方だけがなるものではなく、日本においては約15人に1人が一生のうちにかかる可能性のある病気と言われています。うつ病は身体的な不調を含めたさまざまな問題が複合的に現れやすい気分障害となるため、早期の適切な治療や改善を図ることが求められます。また、一見うつ病とは関係性が薄いと感じるような症状についても、もとを辿れば原因となっているケースも実際の診療現場ではよくみられる事例です。気になる症状やいつもと違うこころの変調がみられたら、まずは早期にご受診いただき、精神科医による正しい診断をお受けください。
主な症状
- 気持ちが一日中落ち込む
- やる気が出ない
- 漠然とした不安感や焦燥感がある
- 疲れやすい
- 眠れない
- 食欲がない
- 何をしても楽しめない
- だるさが抜けない
- ぼーっとしやすい
- 口数が少なくなる
- 集中力が続かない
- 否定的な考え方ばかりをしてしまう
- 身体の動きが鈍くなる
- 記憶力が悪くなる
- 自尊心の低下 など
特に睡眠障害についてはうつ病の患者さんに特徴的に現れやすい症状であり、「寝つきが悪い」「眠れない」「寝ているはずなのに寝た気がしない」と訴えられる患者さんが多くみられます。
また、実際の診療現場では肩こりや腰痛などの症状を訴えられる方も少なくありません。肩こりや腰痛などは一見、整形外科的な要素の強い症状にみえますが、うつ病は多様な症状を引き起こす症候群となるのが特徴的です。整形外科で適切な治療を受けられていてもなかなか改善がみられない場合にはうつ病の可能性も考えられますので、精神科へのご受診もあわせて検討されることをおすすめします。
うつ病によって現れやすい身体的な不調例
- 頭痛
- 吐き気
- 胸やけ
- 口渇
- 肩凝り
- 腰痛
- 手足の震え
- 動悸
- 息切れ
- 生理不順 など
うつ病を発症させるきっかけとなりやすい出来事
人間関係のトラブル・いじめ・結婚・昇進・転居・災害・身近な人やペットの死 など
仕事や学校での人間関係の問題をはじめ、恋愛におけるトラブル、仕事に対するプレッシャーなどとりまく環境の大きな変化はうつ病を発症するきっかけとなりやすいため注意が必要です。
週単位や月単位でこころの不調が続く場合には一度精神科にご相談ください
うつ病は日常の出来事をきっかけに、急な症状を生じやすい病気でもあります。週単位や月単位で何らかの不調が続いている場合には、一度精神科までご相談いただくことをおすすめします。
また、「やる気が出ない」「何をやるのもおっくうに感じる」「何もしたくない」といった気持ちのムラが実生活において悪影響を与えている場合や、すでに具体的な問題が生じている場合、ご本人が深刻なお悩みとして捉えられている際にもぜひ早期にご受診いただきたいと思います。
治療の流れについて
まずは不調を感じ始めた頃のことを丁寧に振り返っていただき、心当たりのある出来事の有無について詳しくお話をお伺いさせていただきます。その後、医師の診断のもと、その方にあった適切な治療法のご提案を行います。
焦ったり慌てたりしないことが肝心です
うつ病は適切な治療を加えれば必ず良くなる病気です。回復にかかる期間は人それぞれですが、焦ったり慌てたり治療を諦めたりしないことがうつ病の治療においては最も重要なこととなります。
しばらくお休みすると快方に向かわれるケースが多いです
うつ病の治療にあたっては、基本的に心身ともにゆっくりと休養期間を設けることが重要となります。休職など、物理的にお休みを取る時間を確保できると自然と症状が快方に向かうことが多いです。
薬物療法を取り入れるとより早い回復がのぞめます
当院で処方している抗うつ剤(SSRI・SNRIなど)は、副作用の非常に少ない安全性の高い新しいお薬です。一昔前のような強い眠気や便秘、喉の渇きなどといった多くの副作用を伴うような薬剤とは異なり、多くの方に安心安全にご使用いただける薬となります。
環境的な問題が主原因となる場合には、その環境から離れることが有効となります
例えば職場環境がうつ病を患う直接的な原因となっている場合には、部署異動など具体的な改善策を模索する必要があります。問題となるものがはっきりとしている場合には、一度その問題から離れていただくことが治療においては有効となります。
精神療法や定期的な通院を通じて必要なサポートを行っていきます
睡眠や食欲に関する改善状況の確認やお薬の効き方、現在の健康状態についてのご質問や医師からのアドバイスなど、定期的な通院を通じて必要なケアを行ってまいります。通院や服用されているお薬については自己判断で中断されるようなことは絶対にしないでください。
うつ病を生じるメカニズムについて
昨今の研究によると、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどといった神経伝達物質による関与も発症要因のひとつとして考えられています。抗うつ薬にはその神経伝達物質の分泌を抑える成分が含まれているため、症状に対する効果的な改善が期待されています。
他の診療科にて治療を続けているがなかなか良くならないといった場合にもぜひご相談ください
一般的な内科でご相談いただくと、「自律神経失調症」という病名で診断されることが多くあります。内科にてある程度の期間、治療を続けられていても症状の改善がみられない場合などはぜひ一度、精神科にもご相談いただけたらと思います。
背景に発達障害による影響が隠れている場合もあります
日々うつ病の患者さんの治療に携わる中で、背後に発達障害による問題が関わっているケースも少なくないことを実感します。発達障害は生まれつきの特性です。大人になってから発達障害と初めて知らされる方も少なくなく、社会への不適合感や人間関係における頻繁なトラブルなどによってうつ病を生じられることがあります。発達障害の有無にあたっては、既往歴や幼少期のお話なども含めて精神科や心療内科にて専門医による詳しい診断をお受けいただく必要があります。
正しい知識を持って正しく治療をお受けください
うつ病は内因性の病気ですが、同時に環境の変化を大きく受けやすい病気でもあります。気分の落ち込みなどは誰もが日常的に感じることですが、一過性ではなく、長期に渡って具体的な不調が続いている場合はうつ病の可能性が考えられます。無理に我慢せず、一度専門医にご相談ください。
治療に用いる薬剤に関しても副作用による影響は昨今非常に少なくなり、より安心安全にご使用いただけるようになりました。必要以上に薬を恐れることなく、効果的な治療法のひとつとしてぜひご検討いただけたらと思います。なお、服用にあたっては必ず医師の指示のもと正しくご使用ください。薬も一生飲み続ける必要はなく、症状の軽減に伴ってお飲みいただく量を少なくしていくことが可能です。ただし、再発を防ぐためにも年単位での経過観察が必要となります。くれぐれも自己判断で通院やお薬の中断をすることだけは絶対におやめください。